10/5(SAT)in松山Vivitホール
SAKURA   石原千宝美 Keison&Caravan クイヌパナ


 太陽石油による無料招待ライブ、ハイパー・ファンクを引っ提げてオープニングに飛び出してきたのは、クイヌパナ。「とっても緊張してるんだけど」というMCとはウラハラに、堂々としていて、生まれ育った石垣島の灼熱の太陽がそこに照りそそいでいるようだった。力強く大胆なステージング、身長153cmの小柄な体がなんと大きく見えたことか。2曲だけの披露だったが、存在感十分、しっかりとパナ's worldを作り上げていた。

  イントロ繋ぎで現れたのはKeison&Caravan。スカンと乾いたKeisonの声が会場に響くと、心のギアはニュートラルに戻り、波の上をたゆたうようなメロウな開放感に見舞われた。少年のような顔で笑う6人兄弟の末っ子、ミュージシャン兼海の男、Keison、ベネズエラ生まれ南米育ちという変わった経歴をもつ生粋の日本人、Caravan。目配せしながら間合いを取り、和やかファンキーな6曲を演奏。男同士でなんだか楽しそうだ。そしてとにかくシンプル。洋服やアクセサリー、知識や智恵まで、今まで身に付けて来たそれらがまるで無意味なもののような錯覚に陥る。

  「こんばんは!っと言うより、ただいま!って感じかな?エヘヘッ。」抜群の笑顔を携えて現れたのは、愛媛県松山市道後生まれの石原千宝美。嬉しさが体中にみなぎり、それが彼女の体からいろんな状態で発せられている。「生まれたこの松山で、お客さんもバンドもみんなみんなで忘れられへん夜にしてってね。」そこここに笑顔の花が咲き始めた。デビュー曲『冬の匂いが消える頃』あぁ、この曲をどれだけ生で聞きたかった事か。おかえり、千宝美ちゃん。SAKURAをコーラスに呼び込み2曲披露。ちょうど実り始めた愛媛のみかんを、皆で楽屋で召し上がったらしく、「ここは太陽が近い気がする。太陽をいっぱい浴びたフルーツ食べて、エネルギーいっぱいお腹に詰め込んだよー。」とSAKURA。そして2人の優しい声で見事なまでに歌いあげた『Time after Time』。子供を背に負ぶって揺れるお父さん。お父さんの大きな背中ごしに、そのちっちゃい瞳で見た光景は、坊やにどう映っただろう?"I'm wating for・・・ time after time."「私はこの歌は友情の歌だと思うの。」と言っていたSAKURA。初めは肩に力の入っていたお客さんも、歌の魔法によってときほぐされ、放たれ、思い思いに"ライブ"を楽しんでいる。2人抱き合いバトンタッチ。

  少し胸の開いた赤いドレスをカジュアルに着こなしたディーバ歌姫・SAKURA。強くて柔らかでのびのある歌声に、感情の輪郭がはっきりとして来るのが分る。ストレートに客席に届いて来るたっぷりの声量に、オーディエンスからも溜息が漏れる。が、MCは関西弁で茶目っ気いっぱい。「今日は客席にお母さんがいっぱいいるみたい。今日は温かい。今晩お母さんに電話したくなった・・・」"愛と平和"をテーマに作ったカバー・コンピレーションAL『あろは』の中でSAKURAが歌っている『ロックンロール・ウィドウ』は、ジャジーにアレンジされ「うらびれたロックンロール」となり、場末の酒場で聞いているかのようだった。会場中の皆完全に引きずり込まれていた。圧巻のステージを展開したSAKURAが今日の出演者全員を呼び入れ、AL『あろは』から『シンシア』を大合唱し、本編終了。

  もう一度、もう一度、あの"aloha"な空間を感じたい、そんな願いのこもったアンコールの手拍子が響いた。再び姿を現した5人に、惜しげもない暖かな拍手と歓声が向けられた。出演者とお客さんとの距離が物理的にも精神的にも近く、幸福で和やかな一夜だった。美味しい音楽をおなか一杯にいただき、ゆるりと流れる秋風の夜道を帰りながら、世界中がこんなalohaなスピリットで満たされるといいな、と思った。

Text/Photo:Nao.K