13回 酒蔵コンサート
BEGIN
316日(日)葉山村酒蔵ホール 
主催
/あったか葉山企画 



去年末の紅白歌合戦で唯一泣けてしまった曲。こたつに座した家族に気付かれないようにこっそり涙を拭った曲。念願叶って今日ついに生で聞けるとあって、開演前から既にゆるめの涙腺になっていた私。大小の酒樽が並ぶ木造の酒蔵ホール、大きな深呼吸をひとつ、木の匂いを体の隅々まで行き渡らせてみると、葉山の澄んだ空気と共に、日本カワウソが生息するという新荘川の湧き水までが流れ込んで来るようだ。清らかなになったこの体に、たっぶりと美味しい
BEGINの音楽を味あわせてあげよう。

 

当日はあいにくの雨、にもかかわらず朝からお並び頂いていた方もいらしたとか。「待ってたよー!」「キャーッ!」盛大な拍手と歓声で迎え入れられたBEGIN3人、会場の手拍子をうけてのM@『愛が走る』が今日のオープニングだ。「雨の中、傘がカラフルに揺れているのをすまない気持ちで上から見てましたよ。5年ぶり?待たせたね、ごめんね。」あぁ、この優しさ、この声。日常の慌しさにカサカサになっていた心がしっとり潤ってゆく。

 「紅白に出て『蛍の光』を唄いながら“来年は何かが変わるだろう”と思いましたが、何も変わりませんでした()。ま、同じペースでやって行けるのが一番なんですね。今日はおしゃべりでもしながらゆっくり進めていきましょう。」ステージとお客さんの物理的な距離が非常に近く、当たり前のように言葉を交し合ううちに心の距離もどんどん近づいていく。比嘉栄昇のまろやかな歌声が切なく響いたデビュー曲MC『恋しくて』、上地等のピアノが弾けまくったMD『No Money Blues』、洗濯板と事務所で拾ったというシンバル(たぶんザザンオールスターズが捨てたもの?だって)などで手作りした奇妙な楽器をスプーンでかき鳴らしたME『おっちゃんタクシー』。

  後半戦は、沖縄は八重山の船旅へといざなう。BEGINが島唄を作る時にだけ現れる心の住人“オモトタケオ”も降臨して来たようだ。三線軽やかなMH『竹富島で会いましょう』。だんだん自分の体験とオーバーラップして来る。白い道を抜けて辿り着いたコンドイ浜、そこで偶然出会った一人の旅人、星の砂を拾い集めながらモンパの木陰で話をした。彼は今や私の人生の中でも大切な人の一人となっている。MI『恋の島 鳩間島』、西表島から郵便船に乗せて貰い渡った小さな島。物資の少ないこの島で郵便物を送りたい私にそうめんの箱を代用して小包を作ってくれた郵便局のダンディーなオジィ。内地の子供3人を里子として育てていた優しいオバァは美味しいジューシーを食べさせてくれた。そして、いきなり転がり込んで来た私をずっと泊めてくれた鳩間のおっちゃん。ヤシガニを獲りに連れてってくれた。日暮れが近づくとボロボロの軽4車で浜まで迎えに来てくれた、「雨が近づいてるぞー!」と言いながら来てくれた事も。沖縄の人は本当に暖かい。・・・BEGINの歌声と明るいリズムにかき立てられたのはなぜか不思議な切なさだった。ツーッと涙が頬を伝っては酒蔵ホールの床を濡らした。

   「今日は酒蔵でこの歌を唄おうか迷いましたよ、一応気を遣ってるんですよ(笑)。」待ってました!MK『オジー自慢のオリオンビール』。オリオンビールはイチ企業ではなく、戦後復興の願いを託したウチナーの夢でもあったそうだ。この三ツ星に希望を込めたのだそうだ。“あっり乾杯!”一緒に叫びたかった。ML『かりゆしの夜』では、お客さんの「イーヤーサッサ!」の大合唱に胸が熱く熱くなった。「高知の人は鳴子踊りで、徳島の人は阿波踊りで、思い思いに踊ってください、それがカチャーシャーなんです。チャンプルーです。」カタチなんて関係ない。音楽につられて体が動き出したら、そう!もう任せてしまおう。

 ほてった体をそっとなだめ、高ぶった心をほっとさせ、いろんな沖縄の姿や自分の姿を完結させてくれたのは、本編ラストのMM『島人ぬ宝』。ゆっくりと、ポトリ、ポトリと涙がこぼれていく。あちらこちらで鼻をすする音が聞こえる。「もっと暮らしの中に音楽があったらもっと楽しくなるだろう。音楽を届けるだけじゃなく、音楽を楽しむ事も伝えて行きたい。これが今年のBEGINの目標…というか、夢かな。」そういう思いでBEGINが考案した4弦の楽器“一五一会”。誰でも指1本で弾けるというシロモノだ。(写真右下 島袋優が手にしている物)“一五一会”の音色に乗って沖縄の青い海、青い空、みどりの風が脳裏に浮かんでは消えて行った。

    酒樽が落ちて来そうなくらいのアンコールの声に応えては『涙そうそう』。詞をつけた森山良子さんは先日の四国ライブで、「若くして亡くなった兄の事を思って書きました」と言っていた。みんな“涙そうそう”状態になっていたが、最後は躍動感溢れるトビッキリHAPPYBEGINの応援歌『ボトル二本とチョコレート』で、雨に濡れた葉山村での熱い夜が終わった。

    傘をさし外に出ると、体からフワフワと湯気が上がっているようだった。駐車場までの雨降りの道のりもなんだか楽しく、横を歩いていた知らない人とまで自然に言葉を交わしてしまう、不思議なBEGINマジックにかかってしまったようだ。“一期一会”。音楽を通じて、たった2時間だったとしても最高の時間を共有した全ての人に、この“出会い”を一生の宝にしたくなるような空間をくれるBEGIN。彼らの夢は、彼らが唄えば唄っただけ確実に実現されていくだろう。

SET LIST

M@愛が走る
MAパイナップル ムーン
MB声のおまもりください
MC恋しくて
MDNo Money Blues
M
Eおっちゃんタクシー
MF防波堤で見た景色
MG波
MH竹富島で会いましょう
MI恋の島 鳩間島
MJくにぶん木の花
MKオジー自慢のオリオンビール
MLかりゆしの夜
MM島人ぬ宝
En.@涙そうそう
En.Aボトル二本とチョコレート