●ここ数年、シンプル且つアコーステ
ィックなサウンドを中心に活動してき
た葉加瀬太郎にとって、今回のツアー
は実にカラフルでファンタジックなも
のだった。特筆すべきはコンピュータ
ーを使ったエレクトリックなアレンジ
をバンドサウンドで。これには驚かれ
た方も多いだろうか。前回のツアーが “静”の癒し力を持っていたとするな
らば、今回は“陽”の癒し力を強く受
けるものだった。踊るメロディ、跳ね
るリズム、ステージから雄弁に語りか
けてくるようなスケールの大きさには
圧巻。内容もどれを取っても申し分な
い。時には(探偵ナイトスクープの顧
問も勤めてしまうほどの)抜群のユー
モアセンスで会場を爆笑の渦に巻き込 んでしまうMCの面白さ、世界的技術レ
ベルの高さ、感性の豊かさ、ステージ
構成の上手さ、あらゆる角度から見て
もそのスキルは群を抜いている。そし
て何と言っても酔いしれる程の楽曲の
素晴らしさ=名曲たちが最大の武器と
いえるだろう。彼のコンサートはまさ
にその名曲(名作)の個展を見るよう
な感覚だ。1曲1曲に見事な描写力、
構成力、構想力があり、実に見どころ
に富んでいる。端正で軽快な弦さばき
は、ダイナミックな量感の表現、躍動
感溢れる生命力の表現、劇的な明暗の
表現、はたまた息を飲むような静寂感
などを自由自在にする。目に見えない
周辺の雰囲気までをも描き出し、私達
の目前に空気・風・太陽・緑等を再現
して見せる様は、まるでルネッサンス
からバロック、ロココと渡り爛熟した
印象派の画家が残した筆致を見ている
ようだった。それほど美麗でエネルギ
ーに満ちたステージであった。
年々増え続ける動員、ソールドアウ
ト続出の各地会場、前述以前に彼のコ
ンサートが如何に魅力的であるか…そ
れは年令・性別に関わらず会場に足を
運んできた観客達を見れば自ずと見え
てくる。他のコンサートではあり得な
い幅の広さ、中でも若年層の指示が増
えた事での彼の功績は実に大きく、そ
して重要だ。今まで近寄りがたかった “クラッシック”という畏まった扉を、
あらゆる世代へ開いたパイオニアの一
人として、そのフロンティアスピリッ
トを大いに賞賛したい。と同時に、名
曲に対する価値観は個人差があるにし ても、本当に“いい曲”というものは
世代を超えて受け入れられるものだと、
今回改めて実感した。それを証明した
のは紛れも無い彼自身なのだ。
言うまでも無く、日本屈指の名ヴァ
イオリニストであり世界を又にかけて
活躍する葉加瀬太郎。オリジナリティ
溢れる彼の作品は、人間の中に宿る普
遍的なロマンと郷愁を持ち、誰もが憧
れるような幸福感に包まれている。そ
れぞれの楽曲が放つ強烈なインパクト
と良質のメロディが多くのリスナーの
心に感銘を与え、音楽という世界の旅
へといざなうのだろう。“もっと知り たい…”そう思ったあなたはもう彼の虜なのかもしれません。
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