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中村 中 インタビュー2

2019/01/08

サウンド面でも野心的な今作。会社や学校などの組織内で心と身体が崩壊していく人の目を覚まさせてくれるような力強いメッセージが込められたM2『羊の群れ』では、ドン、ドン、パン、と思わずクラップをしながら地鳴らししたくなるような衝動を支えるように、かどしゅんたろう(Dr.)、えらめぐみ(Ba.)といった新進気鋭のロックミュージシャンがアルバムの数曲に参加している。また、アルバムの序章のように物語性を感じさせるM1『廃墟の森』や中村 中自身が演奏するマリンバが美しくも切ないM5『きみがすきだよ』などでは、トラックメイカーの森 佑允が彼女の歌声を際立たせつつ聴き手の想像力を駆り立て、『箱庭』、M4『不夜城』、M7『裏通りの恋人たち』、そしてM9『雨雲』では様々な人の悲しい笑顔や涙が混ざり合う街をトラックメイカーの丸山 桂が描き出している。そしてその中でも、林 正樹のピアノと中村 中の歌声のみで紡がれているM8『たびびと』の美しさは際立っている。“新しいふるさと”と歌われるこの曲は、歌いながら全国を旅する彼女の想いなのか、色んな想像を巡らせて自分の故郷についても思いを馳せられる。こういったほっと安心感を得られる楽曲が収められているのも『るつぼ』の聴き所のひとつだ。

 

 

 

そして現代の“おかしなこと”が歌われたこのアルバムで、中村 中自身の気持ちは最後の10曲目、『孤独を歩こう』に込められているという。誰も歩いていない孤独の道は険しいけれど“平凡で 平坦で ありふれた道を選んで 時間も感覚もなくしてしまうのが嫌なんだ”という歌詞にあるように、埋もれて自分自身をなくしてしまいたくないと筆者自身はこの曲から勇気を貰えた。他のインタビュアーともこの曲について、中村 中という人はるつぼの中ではなくて、もしかしたら上や外から見ているのかもしれない、そこから一歩踏み出そうと現代社会にエールを送ってくれているような曲だねと話した事を伝えた。

 

「私自身も社会の中に居て、生き辛いな、気持ち悪いなって思ったりする事もあって。例えば働き方の事、過重労働の事、インターネットの事みたいに、色々な気になる事を書いていったんですけど。ただそれを集めただけのアルバムになるのはつまらなくて。それだけ集めるんだったら、じゃあどう生きていったら良いかぐらい答えろよって言いたくなると思うんです多分(笑)で、私なりの答えはやっぱり『孤独を歩こう』にあって。中に居ないと中の事は見えないんだけど・・・国とか会社とか、家とか、その中に居ただけじゃ気が付けない事はあって。・・・そうかもしれない。私は一旦出ない?って言いたいのかもしれない。“もうよくないか?そんな無理しなくても”みたいな」

 

「孤独」は寂しい言葉にも聞こえるが、この曲では大きな勇気を貰える言葉だ。自分の感覚を育てる大切さを、『孤独を歩こう』という曲を通して改めて話してくれた。

 

「最初に言ってくれたように、沢山の人が言っている言葉の方がなんとなく正しく見えてしまうというか、それを言っておくと楽というのがありますよね。周りと同じ事を言って安心している人たちって、ちょっと違う事を言う人を多分怖がっていたりすると思うんです。で、そうすると“何で?何で違うの?”って物凄く反撃してくるじゃない?そういうところも変だなと思っていて。人それぞれ自分の好き嫌いの感覚で発言していいはずなのに、周りに合わせとけよ、みたいな。合わせていると、どんどん自分の感覚は失われるし。それでいざ、その長いものに巻かれる流れが大失敗するとするじゃない?そうなった時に、好きで選んでいる人は何も思わないんだろうけど、文句言い出す人も居ると思うんです。それも無責任だなと思って。楽してとりあえずその流れに乗ったんでしょって。そういう時に後悔しない為にはやっぱり、想像力と他人への関心と、自分の感覚を磨くことが大事かなと思っているんです。孤独な方が、考え方が自由になるというか、冴えるでしょう?こうした方が良いよとか、流行ってるらしいよって周りの声を聞かなくていいから」

 

『るつぼ』というアルバムから受け取るものは人それぞれだけれど、筆者自身は先に書いた“自分の言葉”を見つけたいと思ったように、本当にしたかった事に気付かされた。アルバムを作った彼女自身はどう在りたいのか、インタビューの終盤でナチュラルにこう語った。

 

「結局インターネットも使うわけだし、私もその組織に戻っていくわけなんですけど。あと何作品作れるかも分からないし、どうせ死んじゃうじゃないですか。だったら、嫌われても良いから、少しでも生き辛い人が少なくなるような動きを、人それぞれで良いじゃんて感覚を残していけるようにしたい。歌だけじゃなくて、こういうプロモーションもそうだし、全部そういう態度でいかなきゃなぁって。というか、そうやっていきたいなと思っているんです!」

 

そして収録曲への想いをさらに深い世界へと導いてくれるようなアートワークもアルバムを語る上では欠かせない。顔から腹部にかけて描かれた大胆かつ繊細なボディペイントを施したのは、これまでも彼女とタッグを組んできた絵師・東學。パソコンの光や夜の街灯りに集う人間をイメージしているようにも思える蛾のペイントは、二人のこんな想いが込められたものだった。

 

「東學さんは4枚目のアルバムからずっとジャケットのデザインをお願いしている方なんですよ。前作のアルバムジャケットが、私が繭に入っているジャケットだったんです。その時からずっと“次は肌絵で、羽化しようね”って言われていて。私がアルバムのテーマを伝えても、東さんはそれを肌絵でやりたいってずっと言っていて。じゃあ肌絵で何を描くかという事で色々話をしていると、東さんが“蛾が良いんちゃうん?”って。要は、るつぼは人間のエゴが作り出している歪みでしょう?虫に我って書く“蛾”がエゴの象徴だなってことで、繭からも出れるし、るつぼのテーマであるぐちゃぐちゃっと集まった社会みたいなものも描けるし。だから私はこの量で、ぐしゃってして欲しいんだと伝えて。そんな風にして出来たものなんです」

 

そして現在、彼女は「アコースティックツアー阿漕な旅2018~2019 ひとりかるたとり」で全国を巡っている。四国公演は1月12日(土)高松SUMUS cafeにて。このツアーでは『るつぼ』の収録曲を中心に、旧譜も披露されるとのこと。アコギやピアノを使った弾語りライブは、また楽曲の新たな魅力が味わえるだろう。

 

「かるたとりって、上の句を詠んで下の句の札を取るという遊びがコール&レスポンスみたいでしょ?そういうところから、今回は一緒に歌える時間を作っています。アルバムが社会派でじっくり聴かなきゃいけない内容だけれど、ライブはやっぱりね、日頃の鬱憤を晴らしたいじゃないですか!大きい声を出すっていうのも中々出来ないし、ライブ会場はそういう事を出来る場所なので、皆さんの日頃の鬱憤を少しでも晴らして帰っていただきたいなと思っています」

 

アコースティックツアーの先には、322日、323日に日本橋三井ホールにてバンドライブの開催が予定されている。また、222日より出演映画『ジャンクション29』も公開予定と、俳優活動からも引き続き目が離せない。

平成最後の冬、中村 中は自身の言葉に命を吹き込んで『るつぼ』というアルバムを私たちへ届けた。CDの帯に書かれているのは“中村 中が産んだ生命”という言葉。生命の上には、“せいさんせい”とルビがふってある。覚悟をもって生み出された彼女の楽曲たちは、きっと誰かの生活で生きていくと思う。実際に私自身には希望が芽生えた。これはあくまでも筆者の感想なので、実際にCDを手に取って、もしくはハイレゾ音源をダウンロードしてじっくりと聴いてみて欲しい。アナタはどう感じるだろうか?

 

 


PROFILE

2006年にシングル『汚れた下着』でデビュー。2ndシングル『友達の詩』発売時にトランスジェンダーであることをカミングアウト。2007年には同曲で第58NHK紅白歌合戦に出場。4thアルバム『少年少女』(2010)では第52回日本レコード大賞優秀アルバム賞を受賞。歌手としての傍ら、AAA、戸田恵子、STARDUST REVUE、岩崎宏美、研ナオコ、八代亜紀、大竹しのぶ、藤あや子など多くの表現者や、舞台への詞・曲提供も行う。役者としても活動しており、出演舞台は『HEDWIG and the ANGRY INCH(07/演 鈴木勝秀)、『ガス人間第1号』(09/演 後藤ひろひと)、『夜会vol.18/19「橋の下のアルカディア」』(14/16作・演 中島みゆき)、『マーキュリー・ファー』(15/演 白井晃)、『ベター・ハーフ』(15/17作・演 鴻上尚史)、『ぼくと回転する天使たち』(18/作・演 江本純子)など。音楽と演劇を軸に希有な才能と多様な活動は日本のエンターテインメントシーンで注目すべき存在感を示している。

2018125日にアルバム『るつぼ』をリリース。128日より「アコースティックツアー阿漕な旅2018~2019 ひとりかるたとり」を開催中。

 

●オフィシャルサイト https://ataru-atariya.com/


 

 

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